講演会の最後に、アブターレブ市長は本学学生のロッテルダム市研修を提案し、選考によって選ばれた学生2名が本年2月15日~24日に研修を体験しました。市長との面談(写真1)、市長に同行しての研究所訪問(写真2)、クリーンエネルギー施設や最新式の港湾設備見学、欧州で活躍する女性起業家との出会い、在オランダ国日本大使館(写真3)やハーグ国際司法裁判所訪問、農民による抗議活動との遭遇など、忘れられない学びを得たようです。学生による報告を写真とともに紹介します。
この1週間のプログラムは、信じられないほどの素敵な出会いと経験で溢れていました。出会った全ての人々が共通して持っていた、それぞれのpassionを私は忘れることができません。
特に印象に残ったのは、「ロッテルダム市はUnited states of Rotterdamである」というアーメッド・アフターレブ市長の言葉でした。古くから欧州随一の港町であり、さまざまな背景を持つ人々、物、文化が行き来する歴史を踏まえながら「多様な人々を上手くまとめるのが市長の役割である、そのためには信用と信頼が何よりも大切である」と語ってくださいました。
市長に同行し、Deltares 水理研究所で「水や食料と国際協力・国際ビジネス」についての意見交換も行いました(写真2)。市長や研究所の皆さんは、日本企業に高い信頼を寄せていること、しかし同時に、日本企業は現地に根付くビジネス構築が不得手で、プレゼンスも弱いと率直に語ってくださいました。
ロッテルダム市はとてもユニークな街で、水上の牧場(川の上の建物)では牛が飼われていて、ビルの屋上では野菜が栽培されています。屋上菜園に併設されたレストランで、四方を野菜畑に囲まれながら食事を取りましたが、料理は全てオーガニック野菜を使ったもの。都会の真ん中で自然に近い生き方をするというコンセプトがとても素敵で、オランダの精神を感じました。
ロッテルダム市は、若者にチャンスを与えることを積極的に行っているそうです。私たちを1週間ずっとサポートしてくれたダナとデレクも、市庁舎で経験を積んでいる若い研修生でした。ロッテルダム市では、新しい血やアイデアを積極的に取り入れようとしており、そうした取り組みは、未来の発展のための大切なこととして戦後からずっと受け継がれているそうです。そのせいか、ロッテルダムにはpassionに溢れた若い人たちが数多く住んでいて、そうした人たちに会えたのも素晴らしい経験だったと思います。
最後に、このような貴重な経験ができたこと、またその機会を頂けたという恵みに心より感謝しております。誰もが経験できないようなこの体験を、私の経験のみで終わらせるのではなく、“共有”という形で少しでも多くの関西学院大学生や日本の若者に伝え、学びの輪を広げていければと考えています。市長の「若者には可能性がある」という言葉を信じて、今後も学びに邁進していきたいと思います。
ロッテルダムの印象
ロッテルダムに10日間滞在して浮かび上がる印象は風、自転車、風力発電、あとモダンな建築である。風が強く、滞在中に突風を感じなかった日はなかった。それを活用した風力発電は郊外の至る所にあり、クリーンエネルギーへの移行に対する本気度を感じた。電力市場が自由化しているオランダでは日系企業も風力発電事業に参入していると知り、気分が高揚した。
市長との会談
研修初日にアブターレブ市長と会談する機会があった。市長は穏和な雰囲気ながらも厳格なオーラも持ち合わせた方だった。市長に「ロッテルダムでビジネスを開始しようとする企業家は、必要な資金をどのように集めているのか」という質問をしたところ、「アントレプレナーやスタートアップ企業がビジネスをしやすい環境を、行政も関わりながら整備している」こと、「blue city(プールを改築したインキュベーション施設)も、起業環境を整える行政の取り組みのひとつである」こと、「税制度においても、ビジネスを始めやすい環境を整えている」こと、「企業家と投資家のマッチングのために、両者を集めたカフェミーティングを開催している」ことを教えてくださった。
さらに、若者や新しい取り組みに可能性を与えること、教育によって移民を含めた平等な社会を実現することを熱くお話しされ、特に言語、歴史、ルールについて学ぶ重要性を強調されていた。
エネルギー
オランダにおける水の管理・運用の重要性と脱炭素化によるクリーンエネルギーへの移行についても学んだ。Deltares 水理研究所では市長も参加した重役の方々とのミーティングが行われ、水、エネルギー、災害、食料などについて話し合った(写真2)。
日本では近年、「防災から減災」ということで、被害を最小に抑える努力を行っているが、オランダは完璧な防災を目指しているようで、徹底的に水を管理しようとする意欲が伝わって来た。
また、オランダの再生可能エネルギーの供給割合は全体の10〜15%であることを知り、意外な感じを受けた。現地では至る所で風力発電施設やダム、太陽光発電を目にして、「環境に配慮した社会だな」と感じ、「クリーンエネルギーへの依存度も高いのだろう」と思っていたが、オランダも日本と同じく主に火力発電に頼っていると市庁舎のスタッフが話してくれた。オランダは天然ガスが取れる資源国であったため―現在ではクリーンエネルギーを掲げてはいるが―まだまだ化石燃料に頼っているようだ。
ロッテルダム港と貿易、ユーロポート
欧州最大のロッテルダム港を見学した。港のコンテナの積載や荷下ろしは全て自動化されており、人はシステムを管理するだけで、港で働いている人ほとんどおらず、とても驚いた。港には巨大な石油貯蔵タンクが無数にあり迫力があった。オランダにはロイヤル・ダッチ・シェルの本社があり、原油を輸入し精製して輸出するダウンストリーム事業が盛んであることを学んだ。石油の使用量は今後減少するであろうため、ダウンストリーム事業を拡大し、精製から製品開発まで行うことで需要が創出できるのでは、と車窓からタンクを眺めながら考えた。
また、狭い国土にもかかわらずオランダの畜産品や野菜の輸出額は世界トップクラスである。農業従事者の高齢化が深刻な日本は、オランダのような技術(アグリテック)を取り入れ効率的な生産から学ぶところが多い。
大使館訪問
3日目にはハーグにある日本大使館、国際司法裁判所、国会議事堂を見学した。ハーグは行政・司法の中心地であるが、首都ではない少し変わった都市である。ハーグに着くと農業従事者らがトラクターで街を行進していた。窒素廃棄物削減のため家畜を減らすという政府の政策への抗議活動だと知った。
国際司法裁判所では歴史や国際秩序維持における役割を、国会議事堂ではオランダの政治や王室について学んだ。そして大使館では日本公使と面会し、日本における移民問題や日蘭のワーキングホリデー・プログラムなどについての話をうかがった(写真3)。
私は以前から、「Brexitにより在英の日系企業は拠点をオランダに移すのではないか」と考えていたため、「オランダ市場に参入する日系企業をどのようにサポートするのか」と質問した。大使館の立場は移民においても、企業のサポートにおいても、全て国益を第一として行動するということを話してくださった。公使は「政府は利己的である(selfish)」と話されていたが、その意味するところは学生である私にはまだよく理解できなかった。
まとめ
非常に濃い10日間だった。本当に1日1日が長く感じられた。もう1つ印象に残ったのは、WAKEATを運営する個人事業主の広瀬絵里加さんとの出会いである。彼女はロッテルダム市で味噌を販売する事業をしており、製造から保管、販売、広報など全て1人で手掛けていて、私たちに「自分が何か本気で熱中できるものを見つけて欲しい」と教えてくれた。私が熱中できるものは未だよく分からないが、欧州での味噌ビジネスに熱中する彼女の姿はかっこよく見え、将来、人生の岐路に立った時には絵里加さんのように悔いのないような選択をしようと決意した。
市長をはじめとするロッテルダム市の方々、関西学院大学の皆さん、一緒に学んだ東さんのサポートがあって素晴らしい経験ができたこと決して忘れません。本当にお世話になりました。ありがとうございました。